
2002年NYのテロの頃チャリティコンサートが行われ、ゲスト出演のスウェーデン声楽家レーナ・マリアさんと共演しました。そして彼女のその美しい声に感動しました。レーナさんは両腕が無く、左足も右足の半分しか無いという障害をもつ声楽家ですが、“天使の声”というのがあるとしたら、彼女のような声のことだと思いましたね。
実は、備生という名前の由来は、母が切迫流産しそうになり、五体満足に生まれてくるようにとの願いを込められて出生前に名付けられました。両腕の無いレーナさんからは全く偽善的な感じを受けず、心の底から湧き上がるように響く声と彼女のメッセージを聴いたあの日、五体満足で生まれた自分はなんて欲深い人間だと思いました。
世界が戦争に向かって進んでいたあの時、彼女の声を聴いた人はきっとそんな気持ちにはならないでしょう。私もそんな演奏家になりたい、と強く思った出来事でした。
―そうですか、同感です。私も学生の頃彼女のコンサートに行ったことがありました。本当に心が洗われるような演奏でした。私にとっていい演奏に触れることは、自分自身の進むべき方向を見つめ直し考える機会になることもあります。音楽には大きなメッセージを伝える力がありますね。そのメッセージは時に人の心を動かします。戦争という悲しい出来事が起こっても、人々の心を動かし改め慰め励まし希望を見出すことができる。本当に音楽の影響力は無限ですね。
はい。もうひとつコンサートのお話をさせていただくと、以前元アイドル歌手との共演があったのですが、お客様の中に重度の脳性麻痺の子供さんと心臓病の弟をお持ちのお母様がいらっしゃいました。おそらくそのお母様は私と同年代。きっとあの頃は同じところにいたはず。20年以上が過ぎお互いに人生色んな事があって、その中で現実を受け止めながら生きている訳ですが、その彼女にとって、今このコンサートは夢のような時間なんです。ほんのひと時、若かった“あの頃”に戻れる。夢の中にいるひと時を提供できる仕事に携わっている幸せを感じましたね。音楽とは勇気づけることも、思い出の時間に戻すこともできる不思議なもの。いつまでも、そういうことを嬉しいと思える人でいたいです。
―そうですね、音楽は時間的芸術と言われますが、聞こえてくるメロディーにふと耳を傾けると、懐かしい思い出が蘇りセンチメンタルな気持ちになったりしますよね…。音楽の力って凄い!そして演奏家って凄い!演奏家とは本当にいいお仕事ですね。
ところで中村先生は演奏活動だけでなく後進の指導にも熱心でいらっしゃいますが、レッスンのお話などお聞かせください。
はい。レッスンで生徒と接していると色々なことを感じます。中学1年生の私の生徒の話ですが、学校行事で老人ホームを慰問し、ヴァイオリンの独奏を披露し、拍手喝采を浴びたことを話してくれました。
『若いのに上手だね』と褒めてくれたおじいさんに、彼は『ええ、この道10年ですから』と言ったそうです。(笑)可愛いですよね。
でも、偉いなと感心思いました。
私が同じ歳の頃なら、ピアノ伴奏も無く弾きにくいなか恥ずかしさもあり、きっと弾くのを躊躇ったでしょう。
でも、その彼は自分がその時に出来る精一杯のことをやったんです。それは演奏家にとってとても大切なことだと思います。
彼に教わりました。
子供がヴァイオリンを弾くだけで、技術云々でなく嬉しいと思ってくれるおじいさんと彼は音楽を共有し、心を通わせました。共有することの素晴らしさを再認識した同時に、一体感を得る為に、参加してもらうことの大切さに気付きました。近年音楽療法の効果をよく耳にしますがご高齢の方の音楽参加の為に私も積極的に取り組みたいと思っています。参加と言っても難しいことはありません、だって手も手拍子を打てば楽器になるのだから。一方的に届けるだけでなくて参加してもらいたいと思う。
そんな思いから、次第に自分のイメージする演奏家像が見えてきます。
私自信は観客と一体になれるそんなコンサートをしたい!そして、年齢を重ねると勢いでは出来なくなり、挫折も味わうし怖さもわかってくるが、それでも私は常に前進していく演奏家でありたいと思っています。
―ところで、プライベートは何をされていますか?
よくスポーツ観戦をします。というのも、アスリートの生活は結構私たち演奏家と似ているところがあって、本番に向けて技術は勿論メンタル面を鍛えますよね・・・だから好きなんですね。共感してしまうし、応援もついつい熱が入ります(笑)
無意識ですが、そうやって何かしら音楽と結び付けているのかもしれません。
―ご自身はスポーツをされますか?
最近は回数が減ってはいますが、昔からテニスをしています。
何事も継続と思っていますから、マイペースに続けています(笑)
―そうですね、何事も長く続けていくことが大切。まさに継続は力なり、ですよね。
私は、近所の特別養護老人ホームに毎週ボランティアで伺いますが、施設内の方と顔見知りになっても、いくら分かり易い曲を弾いても、投げかけるだけでは距離は縮まらないことを痛感します。今回先生とお話をして、先生のように音楽に対しても人に対してもきちんと向き合う、そして丁寧に接し活動をしていきたいと改めて思いました。先生のような方と活動を共に出来て大変嬉しく思います。今日は本当にどうもありがとうございました。今後も活動を盛り上げ一緒に頑張って参りましょう!
撮影協力:Sens 麻布十番
http://r.gnavi.co.jp/b866501/(外部リンク)
![]()
ヴァイオリニスト
中村備生(Nakamura Sonou)
4歳よりヴァイオリンを始め、桐朋学園付属「子供のための音楽教室」を経て桐朋学園大学を卒業。ニース国際アカデミーでP.アモアイヤル氏、ニューヨークではA.ペレク、G.ディクテロウの両氏に師事。多数のコンサートに出演。ヨーロッパ各地における国際交流コンサートや、1995年3月、ドイツのデッサウ市で行われた「クルト・ヴァイル・フェスト」に出 演。国際調和クラブ主催のコンサートに出演する他、リサイタルを多数開催。その他、「劇団四季」をはじめ多くのミュージカル、服部克久率いる「東京ポップスオーケストラ」、CMや映画音楽のレコーディング等多ジャンルで活躍中。

一期一会です。
![]()
イヴリー・ギトリスの小品
(ギトリスは80歳ぐらいの現役ヴァイオリニスト、彼の演奏は大変面白いですよ!)
![]()
先日のチャイコフスキーコンクールで優勝した若手ヴァイオリニスト 神尾真由子さん。
研ぎ澄まされた感性、卓越したテクニック。彼女の演奏はまるで「音の宝石」です。機会があれば是非彼女の演奏を聴いてみてください。